vol.01 山田博さん CTIジャパン代表

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表層にある知恵と、深いところにある知恵

Q.ひろしさんのお仕事について教えて下さい。

A.プロのパーソナルコーチとして、その人がより生き生きと生きることに向けてパートナーとして関っています。

 

Q.ファミリーツリーの記念すべき第一回キャンプを終えられて、今はどんな感じですか?

A.キャンプには、20人以上の親子が参加してくださいました。最終日、参加者が全員無事に帰られて、スタッフだけになった時、“これが幸せというものなんだなぁ”という言葉が口をついて出ました。何も欠けているものがない、“もっとこうしたほうがいい”という思いが何もない・・・そんな充足感、言葉で表現しようがない感じを味わっています。

 

Q.そんな充足感が味わえるなんて、素晴らしいですね。 その充足感をしっかり手にすることを可能にしている知恵、ひろしさんがこれまで培ってきた、受け継いできた知恵というものを、今日はお話いただけますか?

A.知恵には段階がある気がします。表層にある知恵と、深いところにある知恵。

表層にある知恵は技術とかスキルとか知識みたいなもの。たとえば会社で営業の仕事をするとしたら、“営業にはセオリーがある”とか“お客さんとのコミュニケーションはこうしたほうがいい”などですね。それは営業の先輩が教えてくれましたし、話し方や礼儀については、親や学校の先生が教えてくれました。

こういう表層の知恵は、何かをうまくこなすため、結果を出すためのものだという感じがします。随分長い間、表層の知恵を使って色々なことをしてきたように思います。けれど今はあまり意識しなくなってきました。

今、使っているのはより深いところに“あった”知恵。もともと人に備わっていて、忘れかけていた知恵。それを思い出した感じです。

 

Hiroshi Yamada

株式会社CTIジャパン代表
山田博さん


インタビューした2004年は、株式会社リクルートを退社され、プロのコーチとして活躍しながらNPO法人ファミリーツリーを立ち上げた時期でした。2012年現在は(株)CTIの代表であり、また株)森へを運営されています。


まず「ありたい自分」になるのが大切

Q.それはいったいどんな知恵?

A.たとえば、“世の中が動いている原則は、見えているものとまったく逆!”というものですね。

よく本にも書かれているけれど、最近すごく実感しているのがこの知恵です。

たとえば成功したい(=成果)と、多くの人が思いますね。そのためにどうするかというと、成功のために何かをしよう(=行動する)と、普通は思いませんか?たとえば仕事をたくさんしよう、仕事をたくさん得るために勉強しよう、資格を得よう、その結果として成功が得られるんだ、と誰もが疑っていない感じがします。

最初に成果を描いて、そのために行動し、その結果を得る、それを繰り返して生きていく。

自分も30数年間そうしてきましたが、そうしている限りは、ハツカネズミのように同じ所をぐるぐる回ってしまう。常に欲しい、欲しい、得られたらまたもっと欲しい!とずっと欲しがっていて、果てがないんです。常に何かが足りないから。足りないからほしい、足りないからもっと欲しい。

実は、1. Be(自分のあり方) 2. Do(そのために起こす行動) 3. Have (成果)  が自然な流れ。

幸せになりたい、と思うと、みんな幸せのイメージを描きますよね。「海外に住む(成果)」とかですね。で、そのために何かをして(行動)となりがちだけれど、まず「幸せである(ありたい自分)」になる、のが大切。

今もう幸せ。今すでに幸せだ、という自分がいれば、自然と幸せな行動をします。欲しい、ほしいと追い求めなくても、必要なものは自然と現れてきます。

これは以前いた会社の研修で10年も前に教えてもらっていたことです。そのときは、なるほどなぁ、と頭で理解して、そうなったらいいな、と思っているだけでした。今は、幸せなこの感覚でいれば、何を持つか持たないかというのは最後の結果であって、どういう自分であるか、のほうがずっと大切なんだということを実感しています。

 

Q.その知恵を本当に学んだ、という出来事は何でした?

A.一つは子供が生まれたことです。生まれた瞬間、もう何もなくてもいいんだ!と思えました。不安というものが一つも無かった、その瞬間を体験した、というのは大きな衝撃でした。

同じような感覚は、まったく何の見込みもないことをやってみる、というところにもあるような気がしています。

だから私は、コーチングの中でクライアントに「やりたいことがあるんだったら、飛び込んでみよう!」って言うんですよ。

“こうしたら→こうなる→そしてこうなる→よし!だいたい先が見えたからやろう”というのではなく“やりたいんだったらすぐやろう”って。

そうするとクライアントには不安が襲ってくる。「そんなこと言われたって、どうなるかわからないじゃないか」って。でも、あえてその不安の中に飛び込んでやってみると、わかるんです。何も当てのないところで、自分を信じてやってみた時に得られることが。

それは“本当に自分のままに生きる”ということ。

何の見込みもないリスクだらけのことでも、やりたい!と思ったのであれば、すぐにやったほうがいい。

 

Q.ひろしさんにとっては、その“なんの見込みもない、けれどやりたいこと”をやった、というのはどんな時でした?

A.そういう瞬間はどんどん増えてきた気がしますが、最近で一番大きかったのは、会社をやめたことです。

今年の6月まで大手情報産業の会社に勤めていました。仕事は山のようにこなしていたし、そこそこ充実感もあったんです。

けれどこのままでいいのか・・という思いは時々頭をかすめていたんですよ。実は、人がより生き生きと生きていくことをサポートすること、そして親と子の絆を取り戻すというプロジェクトのために生きること、の方に魅力を感じていました。

本当にそれをやろうと思ったら、会社は辞める必要がありました。仕事の片手間にできるようなことじゃないことはわかっていましたから。でも、何の保証もない。会社を辞めてしまって、コーチとしてどれだけ仕事があるのか皆目わからないし、家族を養っていける確証があるわけでもない。リスクだらけだし、会社にいたほうがいい理由はたくさんありました。

でも、普通こういうことはしないだろう!と思いながらも“辞める!”とある時決めた。

その時、「これでいいんだ!」という感覚をど~ん!と得たんです。

もうこの感覚を得たことは、すごく大きな贈り物。これさえあれば、辞めた末の結果がどうかなんて、あまり関係ありませんでした。今すでにOK、という感覚でしたね。

そしてその結果、ちゃんと本当にやりたい仕事が手に入ってきています。

こういう感じで生きていくことが知恵かもしれないなぁ、と思います。幸せなまま生きるというのは、こういうことの繰り返しなんじゃないでしょうか。

ファミリーツリーの親子キャンプを開いたことも、来月アラスカに一人で行くことも、今までの“こうして→こうして→こうなる→だからやろう”という生き方のシナリオの中にはないんです。

でも逆から、“ありたい自分  Be”から始めている自分、がいます。 もちろんいまだに不安は襲ってきますけど。

 

山田博(2004年)

その時、「これでいいんだ!」という感覚をど~ん!と得たんです

Q.どんな不安ですか?

A.そういうことして、お金はどうする?とか、家族は何て言う?とか、世間的に見て会社やめた人間が旅行ばかりしているのはどうか?とか。いくらでもあるでしょう。

でもそういう“自分を止めるような声”は、本当の自分のものではないということもわかっています。

 

Q.おもしろいですね。不安がない状態が手に入るためには、まず不安のまっただ中に入っていく、というのが。

A.これがまさにパラドックスなんですよ。不安の無い世界がここにあるとすると、その手前にはものすごく大きな不安の固まりが待っている。そこを抜けないと、その先には出ないんです。

たぶん本当にエキサイティングに、何の悔いもなく生きるということは、毎日不安のまっただ中に突っ込んで、そして抜けていく感じだと思いますよ。

 

Q.最初に不安の嵐の中に入っていく!と決めた時は、何が支えになっていました?

A.一言で言えば“愛”。

実は私には、愛情が薄い人間だ、というコンプレックスがずっとありました。

10歳の頃、田舎に引っ越して転校した時にいじめにあった。子供心に、いじめにあった原因を自分のせいだと思うのはつらいから、親のせいにしたんですね。いじめられたのは、この学校に連れてきた親が悪いに違いない、ということにして、親との関係に1回シャッターを降ろしました。降ろすことで、愛情を止めたんですよ、自分で。

それ以降“自分には愛情がない”とずっと思っていました。好き嫌いとかではなく、本当の意味での愛ってどういう感じなのか、ずっと感じられませんでした。結婚もしたけれど、やはりどこかその実感は薄かったんですよ。

豊かに愛情表現している人を見るとうらやましくて、自分にはああいうことはできないなぁ、と思っていました。それが大きなコンプレックスで、自分がいやでしたね。もしかしたらこのままずーっと実感できないのかな、と思っていた時に、長男が生まれました。

お産に立ち会って子供が生まれた瞬間“とめどなくわき上がってくる愛情、幸せな感じ”を思い出したんです。あるじゃないか、俺にも。あったんだ!って。

それはすごくうれしかった。自分の中に愛がある、ということが、あふれ出るくらいある、ということが実感できた瞬間でした。子供が教えてくれたことだけれど、それが不安のまっただ中に飛び込んでいくときのよりどころになっています。

会社を辞めるというところに飛び込んでいった時も、先はどうなるかわからないけれど、誰かにどう思われるとか、何かが欲しいとかいうのは全然関係ありませんでした。ただ自分が自分であって、それでよし!という感じ。それでもうOKなんですよ。

もしも辞めた結果がうまくいかなかったとしても、自分はなにも変わらない、ということを知っている。結果に左右されない自分がいる。そしてそのことを知ってくれている人たちがいる。

それは妻であったり、子どもであったり、仲間であったり。どこまで行っても決して切れない命綱がある、という感覚があるから飛び込める。どんなになっても大丈夫だ、という感覚がありますねぇ。

 


恐れとか不安がある、ということは、
ここに喜びがありますよ~っていういいサインなんですよ

Q.会社を辞める!と決めて、それからその“大丈夫”という感覚が手に入ったんですか?普通、そういう感覚や手応えがあってから“辞めよう”とか“次の行動を起こそう”と思って足踏みすることが多いですよね。

A.やってから手に入るんですよ。それは絶対!リスクとか不安の中に入って行ってこそ、本当の楽しさを感じられると思います。 Enjoy=Enter+Joy なんですよね。リスクや不安の中に入って行くときこそがエンジョイ!本当に逆さまなんですよ、世の中は。

恐れとか不安がある、ということは、ここに喜びがありますよ~っていういいサインなんですよ。

怖ければこわいほど自分が見えてきますしね。恐れている自分が見えてきて、すべてをさらけ出して手放さなければそこに飛び込めない。

それを繰り返していって手に入るのは、恐れに影響されない状態。

恐れとか不安は消えないです。“不安を持つ”というのは、たとえていうと、自分の中の“不安製造装置”が常に作動している、という感じ。ちゃんと毎日不安製造装置がお仕事してるわけ。わた飴みたいにぶわ~っと不安は出てきます。できないんじゃないのかぁ?とか、人にどう思われるかなぁ?とか。でもそれはそれでいいの。不安製造装置がそう言ってるだけですから。

 

Q.なるほど!なにか座右の銘とか、山田家秘伝の巻物に書いてある教え、みたいなものはあります?

A.今は「そのままの自分で生きる」というのが一番ピンときます。不安も恐れもあってOKで、欠けていることはなくて、幸せで、愛があって、このままで充分。そのままの自分でいい!という感じ。

 

Q.そういう知恵を思い出して、今はどんなところにいるんですか?

A.今は自分が本当にやりたいことをやっていこうと思っていますね。ファミリーツリーのキャンプを通して親子プロジェクトも本格的に始まりましたから、もっともっといいものにしていきたい。そういう意味では自分は今すごく恵まれていて、本当にやりたいことが目の前にあります。プロジェクトもそう、コーチングもそう、旅に出ることもそうです。

目の前にあるやりたいことを、今は一個一個経験していきたくて仕方がない。経験すれば必ず次が見えますから、さらにどんどんやっていきます。

 

Q.ひろしさんにとっては、世の中の親子の間がどうなっていくのが理想ですか?

A.お互いに学び合える関係になってほしいです。子供からも大人からも夫婦からも、家族がお互いの知恵を学び会える関係。

そのためには相手をよく見て、相手の本当の姿に目を向ける必要があると思います。

そしてそのためには、まず大人が恐れや不安を手放していく必要があります。たとえば、親は“この子はこんなコトしていたら将来大変だからこうしてあげなきゃ!”と一生懸命になりがちですよね。でもそういう不安をちょっと脇に置いて、本当の“その子そのもの”を見る。

これはある意味怖いかも知れないし、あせりも出ると思います。でも怖さやあせりを脇に置いてみたとき、はじめて本当のその子のことが見える。そういうことが自然にできる場を創っていきたいと思っています。

こう話してみてあらためて思うことは、私はみんなが楽しみながら、恐れに対してチャレンジし続けていく場を創り出していきたいんだ、ということですね。もっともっとそういう場をたくさん創っていけば、みんなそれぞれに思い出すことができるでしょう。

“いいんだ、このままで”ということを頭だけではなく、心の底から実感できると思います。

 


今日はどうもありがとうございました。