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CTIジャパンというコーチ養成機関で一緒に学んだ仲間の安達貴之さん。

 

ずっと年上の方だけれど、話しやすい気さくなおじさんという印象でした。

 

同窓会などでお会いするたびに、何気なく話してくださることがとても心に残って、ぜひしっかりお話を伺いたいと思い、今回お時間をいただきました。

シンプルで、かつ深いお話を伺うことができました。どうぞお楽しみください。

 

仲間同士の気安さで、2人ともかなりくだけた口調になっていますが、ご容赦くださいませ。

 

 

1.行動の動機となる大切なこと:存在証明

***

以前お話を伺った時に、奥様とケンカをしたことがないとおっしゃっていました。

どうしてそんなことができるんですか?と聞いたら、

「家の中ではいつも目の端に女房の姿を入れている」と。つまり“今洗濯しているなぁ”と何気なく意識を向けている。“ちょっと大変そうだなぁと思ったら手伝う”と。

 

サラッと言われたけれど、すごいことだと思ったんです。

 

安達)

すごいこっちゃないけれど。
人間の本性といいますか、特に人間にとっては大事、と言った方がいいかな、

 

元々、基本的な動機付けとして第一番に重視している点というのは、《存在証明》なんですよ。

 

《存在証明》のために人はポジションにつきたがるし、そうやって考えてくると“お墓”も同じじゃないかと思うんです。

 

 

***

なるほど。ちゃんと生きていました、この世に存在していましたという《存在証明》がお墓。

 

安達)

そうそう。お墓の中に入ってまで、自分の存在を証明したい、それでやっと安心するというね。

 

人間のかなり根本的なところにそれが存在するんですよ。

 

だから会社の会議で手を挙げて発言したり、何かを主張したり、目立つことができなかったら面白くなかったりするわけね。

 

《存在証明》は、お金もうけをしたり、自分はどのように生きようかと考える時、自分のポジショニングをどうするかと考える時、などのすべてにかかってくる。

 

ただね、《存在証明》には、非常に相反することが一つあるんです。

 

たとえば会社の中では上司と部下。

上司が存在証明をとっていくと、部下の存在がなくなるんです。逆に、部下を存在させてやろうとすると、上司が死んでいくんですよ。

 

***

死んでいくんですか。

 

安達)

そう!存在証明がなくなっちゃうわけ。

 

ま、“ポジション”と言う存在はあるけれども、「あぁ、あそこは彼(部下)がいるから成り立っているんだ」という感じになってくると、今度は上司がモチベーションを持てない。

 

かといってあんまりにも上司が強いと、部下がみんな死んでいくという、そういうねぇ相反する部分があるんですよ。

 

 

***

そうですね。確かに。

 

安達)

それは家庭内でも同じだと思う。さっき言われた“妻をいつも目の隅に入れている”というのは、どこかに妻の存在を証明している何かを見ておいてあげないと、という、そういうのはちょっとあるよ。

それは根本的なところだから。逆に言えば非常に怖いよね。

 

***

根本的なところだからこそ、それを大事にしないと、あっという間にモティベーションがなくなっちゃうし。

 

安達)

なくなっちゃうし。

 

子育てにしても同じだと思う。〈何を大事にするか〉ということと別に、根本的なところで人は存在

 

証明を求めて生きているから。

 

***

お仕事では、《存在証明の大切さ》どのように活かされていますか?

 

安達)

私は360度評価の開発をやっていたから、そこに関わっているかな。「360度評価の実際」という本を書いて…

 

360度評価とは、上司や部下・同僚や仕事上で関連する他部署の人など各方面の人が被評価者を評価する手法である:コトバンクより)

 

***

ネットで3万円弱の値が付いているというあの本ですね。

 

安達)

そうそう、今はもう絶版でないんですけどね。社内で合併があった時に、もうこの際だと思って360度評価を導入してね、結果をグループの中で公にしていったんですよ。つまりみんな自分を丸裸にしていったんです。

 

***

360度評価で

 

安達)

う。もうバーンと表が出ているから、それについて自分で説明するわけ。

 

***

わー、こわい。

 

安達)

自分の説明が終わったら、今度は人がそれをどういうことだかはっきりさせていくわけだから。

 

こわいっちゃ、怖い。

でもねぇ、いっぺんに打ち解けるのね。お互いの“人となり”がわかるから。

 

***

それで落ち込んだりする人も中にはいるでしょう?

 

安達)

いや、基本的にはいない。

 

Takayuki Adachi

安達貴之さんプロフィール

元ノバルティスファーマ()人事部顧問。

昭和39年明治薬科大学卒業。サンド薬品株式会社入社。

平成9年ノバルティスファーマ株式会社。現在に至る。

専門は人材育成全般、目標管理制度と評価

 

著書に「360度評価の実際―企業価値からコンピテンシーによる人材育成へ

(現在Amazon29800円の 値が付く本。 

 20026月発売)


持ち味を発揮すること”と“生産性”の関係」

そのかわりね、しっかりと説明しておかなきゃならないのは、人間だれしもいいところと悪いところがある、という話ですよ。

いいところはあるけど、そのいいところが出過ぎると今度は欠点になる。

 

ちょうどいい塩梅のところって絶対にあるはず。

 

いいところをぶち壊して、悪いところを見るよりも、いいところを調整した方がその人の価値が出る、とそういうふうに思っています。

 

たとえば横軸に生産性、縦軸にその人の持ち味、のグラフをつくるとするでしょう。そうするとね、持ち味を発揮すると生産性はあがるんです。

でも、あるところを超えたら今度グワッ!と下がる。

 

 

***

グワッ!と下がる。

 

安達)

そう。

たとえばものすごくしゃべりが上手な人っているでしょう。その持ち味が出ている時は非常に素晴らしい。みんなを引っ張っていく力みたいなものがある。でも、しゃべりすぎると人の意見を聞かないから。

しゃべりすぎて、人の話を聴く時間がなくなる。そうするとうるさいだけになる。

 

だから頃合いのこの頂点で止めとておくと、その人の最高にいいパワーが発揮できる。

 

 

***

なるほど!最高にいいパワーが発揮できる〇印のポイントはどうやって知るんですか?

 

安達)

わかりにくいけれど、自分で学ばないと。

“やっぱりやりすぎかな?”って気づくから。持ち味って出過ぎやすいんですよ。

 

***

そうなんですね。

 

安達さんは周りを感じるというか、周りを見ているじゃないですか、目の隅に奥さんいれていらっしゃるように。それができているから、人のことも感じられるんでしょうね。

 

 

安達)

あ!それは言えているかも。周りを観察していないとダメ。

 

***

ですよね。へぇ、これ面白いなぁ。これは「360度評価の実際」の本にも載っているんですか?

 

安達)

載っています。

人には必ずあるテーマにおいて、その人の持ち味を出せるものと、出せないものとがあるはず。その持ち味をうまく調整して出せるのがいいリーダー。チーム全体のパワーが上がる。

 

***

なるほどね!出せるものと出せないものがある。ということは、欠点といわれるものにはあまり注目しないですか?

 

安達)

そうね。

いい所を出し過ぎて欠点になる人もいるし、いい所が出ない人もいる。

 

好きな仕事は、自分のいい所を出しやすいものの職場を選んでいるわけ。

 

だからなるべくいい所を出した方がいいけれど、それも行き過ぎるとこけてしまう。

それで色々考えて人の姿を見ていくと、“彼はここが長所だな、でも出過ぎているな”とか思うわけ。

 

***

その、“人の姿を見ていくと”ってサラッとおっしゃるんだけど、そこが意外と難しい人が多い。

 

それはどうやって観察しているんですか?

 

安達)

(笑)それはね、やりようないし私も失敗してきているから。

 

***

会社ではどのようにされていました?

 

安達)

私はわりかたポジションが上の立場で歩いてきているんだよね。だからそこまで気を使っていることはあまりないと思う。

逆に彼ら(部下)の方が気を使っていると思いますよ。

 

こちらまで気を使うと、やりにくくなる場合が多分あると思う。

だから、むしろ知らんぷりしていることが多い人生だったと思います。

 

***

でも意識には入っている? 知らんぷりをしているけれど。

 

安達)

意識には入ってるかもしれんね。

 

部下はあんまり大きな失敗しないしね。みんな結構慕ってくれるし。不思議なことに。

 

 

***

きっとそこで何かやってるんですよね、安達さんがね。そこにすっごい知恵があると思うわけです。

 


人の存在証明を自分のそれより大切に

 

安達)

あのぉ、もう一つはね、やっぱり《存在証明》というのを自分の中ではものすごく意識していることが多いよね。だから部下の存在証明を大事にするようにした、と思います。

 

***

部下の方たちが存在証明できるようにする、ということですか?

 

安達)

そう。

部下に、“今度の発表はあなたがやってみなさい”とかね。

 

ちょっとこれは考えてみよう、とかね。自分がするより、彼らにやらせてみて、いい成果が出た時はなるべく周りの人たちにそのことがわかるようにしたり、そんなことはしていたと思う。

 

 

***

そうするとほら、部下が存在証明していくと“上司が死んでく”って言っていたじゃないですか

 

安達)

自分自身も、そこがものすごく不思議なんだけれど…でも自分の役割があったから、そちらを大事にしていたからいけたと思うんです。

 

***

部下の存在証明を大切にしても、自分には自分の役割があった。

 

安達)

そうそう。で、その役割をしっかりやっていけば、何とかなりますよね。部下の手柄を取らなくたって。

 

あ、今現在のことで話しましょうか

今ね、自治会で役員をやっているんです。

入る時にはものすごく考えたの。底辺に何を持てばいいか。

自治会はボランティアでしょう。そして、どちらかというとメンドクサイ仕事ばっかりなんですよ。

手伝うのもねぇ~ちょこちょこやる分にはいいけれど、どこまで考えりゃいいかな、と。

まず自分の中で、底辺をどこに置くか考えて。

 

***

底辺って何ですか?

 

安達)

たとえば、私が会社にいた時は、会社が人々にサービスして、会社が私を雇ってくれて給料をもらっている。だから会社を経由して人々に奉仕すれば、給料への対価として応えられる、という考え方なんですよね。それはもう当たり前の話。

 

自治会では、そこはどうだろう?

 

つくづく思うのは、やっぱり自分は一人では生きていけないし、(テーブルの上にある)カップなどの色々なものを見たら、みんな誰かが作ってくれたもの。そういうものに囲まれて生活しています。

 

なおかつ、私は年金をもらっているわけですよ。そんな中で、自分が勝手に生きていいのかな?という、後ろめたいような気持ちがちょっとあります。

だから、年金に対して、自分ができることならまぁやろう、ということで自治体の役員をやっているんですよ。

 

***

ということは、底辺、というのは“何のためにやるか”ということですか?

 

安達)

まず最初にね、自分はどういう心がけでやるかとか、芯をどこに置いてやろうとしているか、というところを、一応さぐるんですよ。

 

自治会に出てくる人の中には、ことあるごとに文句を言う人もいるわけ。会議が伸びたとか、忙しいのに無理してきているとか。

私なんか考えられないわけですよ、そういう底辺持っていると。「いいんじゃない」と思うわけ(笑)。

 

もう一つは存在証明。

みんななんかかんか言いたいんですよ。私なんかものすごく静かな方ですよ。

3年やっているけれど、ずーっと静か。

 

ところが不思議なことに、まわりからとても信頼されているんですよね。何かあると知恵袋のように相談されたりしてね。

 

だけど、最初のうちは自分の存在証明についてさんざん考えました。

何か居心地悪く感じてね。会議でいつも何も物を言えないで帰ってきちゃうし。

何か言おうとしてもちょっと雰囲気が違う。会社でやっていた会議と、自治会のそれはまるで状況が違う。

こういう感じでやっているのなら、それはそれでいいか、あんまり口を出すことはないなぁと最初のうちは思っていました。

 

今はむしろ、自分の存在を出したら役割がどんどん増えてきそうだから、「出さないように、出さないように」と思っているくらいなの。

そうやって隠せば隠すほど、というか抑えれば抑えるほどね、逆におかしなことに存在の価値があがっていくんですよ。

 

***

だってさっきおっしゃったみたいに、安達さんは自分の存在証明より人の存在証明を大事にしてくれるから、いてくれたら安心なんですもんね。周りの人は存在証明できるから。

 

安達)

多分そうなんだろうね。いや、言われて初めて気が付いたけど、そういわれればそうかもしれない。

 

***

ね。なんだか、一家に一人そういう人が、たとえば昔はお母さんがそういう役割をしていたじゃないですか、お父さんをたて、子どもを大事にし…ちょっと最近そういう雰囲気がね(笑)自分もあんまりしてない、と今思いましたけれども。

 

安達)

昔風なやり方はないにしてもね、何かあるかもしれないね。

 

***

時代が変わっても、《存在証明》の大切さは変わらないのだとしたら、バージョンアップしていく必要がありますよね。

 

安達)

そう。そして人には必ずこの“持ち味と生産性の関係性”があるんですよ。

いくら偉そうなことを話していても、人からめちゃくちゃ言われているような人がいても、その人にとってのこれ(グラフ)があるんですよ。欠点はいいところが出過ぎているだけ。だから、「あいつはダメだ」とかそういうことは一切、言わない。もうそれは我々コーチングで経験してるじゃないですか。これ(グラフ)を信じることですよね。

 

***

なるほどね~。

今見えている良さもあるし、見えていないけどなにか感じるものもきっとあるでしょう。

 

安達)

それはあるね。

 

***

それはよく観察してるんですね。

 

安達)

それはちょっと見てるね。だから、あの人のいいところは…って、なるべくいいところ探してあげるようにしていますね。

 

ふっと観察するのは別れがけの後ろ姿とか。やっぱり感じるものはあるよね。

あとはやっぱり感覚。理屈じゃなくて想いとか、感性が見える時はその人がよくわかる。

 

私は中途採用の面接をよく担当していたけれど、色々経験している人たちがくるわけですよ。

中には5つくらい職を変えた人もいて、それぞれの中で成果を出したり出さなかったりしてるんですよ。でね、一つひとつ聴くのは大変だから

「この時代は何色だった?」って聴いたの。

 

***

おぉ!コーチングみたいですね。

 

安達)

そう、その手法使ったの。

で、その次は何色だった?ってどんどん聞いていくと、いちいちややこしいことを聞かなくても、“そうかそういう人生を送ってきたんだ”というのがスコーン!とつかめたの。

 

「この時代は赤」って言う時は、その時はものすごく一生懸命働いたっていうことなんです。

そして職を経るうちに段々色が薄くなってくるわけ。

最近については「深い青だ」とか言い始めてね、

 

じゃ今度うちに入った時に何色になるんだろうかな、と思うとね、ま、赤にはならないなぁ。

いずれにしてもブルーか、薄いブルーくらいかな、なんてそんなこと想像しながらね。

そして、本人の様子を見ているとかなり落ち着いた感じがする。

「私を入れてくれたら絶対TOPとりますよ」って言うような、気負ったところは何もない。

 

その人は、自分の精神状態とか自分の想いとかを人にうまく伝えられる人なんですよ。

だから聴いていてものすごく安心できるわけ。

で、採用にしましたね。

 

***

へぇ~。面接でそこまで感じるってすごいですね。

 

安達)

え、何で?

私は面接ではそこを探らない限り入れない。

 

なぜかというと、採っている相手が営業マンだから。

営業マンていうのはお客さんのところに行くわけでしょう。

“俺は絶対売るぞー!”ぐらいな感じでいく営業マンもいるけれど、私が採ろうと思うのは、自分の想いもしっかり伝えられて、相手の想いも汲みとれるような人。そういう人だとふっと安心して近寄れるんですよ。だから、想いの部分を見るしかない。

 

そのせいか「安達さんの面接は面白い」っていう人は結構いました。

何を見ていたかというと、要するに相手の心根みたいなところがスッと開くかどうか。

 

***

スッと開くかどうか。

 

安達)

心根を隠しながら「自分を入れてくれ」っていう人は、採らない。

何を大事にしていたかっていうと、いわゆるHonest(正直な)。

Honestもちょっと意味が深いんだけどね。

 

やったことを正直に言うんじゃなくて、自分のことをほんとに素直に表現できる人。

そうすれば、どんな場に出ても、抵抗感なく受け入れられる。

仲間にも受け入れられるし、そういう意味で、いつもHonestテーマにして面接していたんです。

 

2.原点となる体験:脳がスカーーっとしている

 

***

話は変わりますが、ある朝部屋に差し込む光がとてつもなく美しく見えた、という話をしてくれたことがありましたね。それを聴かせてください。

 

安達)

あれはね、私も初めてだったし、それっきりないんですよ。でもね、とても不思議だったんですよ。

 

アニメーション映画で「君の名は」ってあるじゃない。新海マジックって言われるほど光が美しく描かれていたでしょう?ああいう光みたい。

ほんとにすーっと差してきたの。その光が何と綺麗だったことか。他の景色はあんまり覚えてない。

 

次の日もそうかなぁと思ったら全くないんですよ。

 

***

その時って何か特別なことがありました?

 

安達)

なんにもない

 

***

前後にも?

 

安達)

なんにもない。

 

それでね、そこから先に考えて今の人生に結びついてる部分があるのは、あの日も他の日も私の脳は同じ脳でしょ。同じ脳なのに、美しい光が見える時と見えない時があることに気がついた。

 

色々考えていったら、脳が人生なんですよ。まったく。

 

***

シンプル!

 

安達)

シンプル。

 

だって“どこか痛い”っていうのを感じるのも脳だし、疲れたなぁって感じるのも脳だし。

“自分はこう生きたい”だとか、人を見て何か感じるのも、すべて脳なんですよ。

 

頭の中は常にすっきりさせとかないと!

私のこれからの人生大事だから、あんまり時間もないしね。

 

そうやって考えていくと“妬み”とか、特に“面子”とか、“怒り”はちょっと難しいんだけど、そういうのは一切脳に入れないでおこうと決心したんです。

 

だからここ10年くらい、スカーっとしているんです。

 

***

10年!

 

安達)

その当時は、自分のガンのこともあったり色々していたから、一応仕事も全部やめて、後は自分の人生を送ろうと思っていた矢先だったことは事実。

 

***

じゃぁその美しい光は、安達さんへの応援みたいですね。

 

安達)

応援みたい。私今でもそう思いますよ。

もしもあの時「あぁきれいだなぁ」だけで終わっていたら…。

 

だから、“病気してからの方がいい人生送っている”と思います。

スカーっとするとね、さっきいった存在証明なんていうのも、あんまり考えない。

自分の存在なんかどうでもいいんだと。

 

存在証明を何とかしようと思えば思うほど、逆にきばっちゃうし、人を押しのけるし。

そんな本性がどこかでいのちを止めてしまうと。

だから存在証明もどちらかというと抑え気味。

 

ま一番抑えるのが難しいのは怒り。やっぱりカーッとくるし。

 

あとね、意固地になってることってあるじゃない、自分の面子と、“これをやらなきゃ自分は”っていうこだわり。“自分だからできる”とか、そういうのもなし。誰でもできるんだと思う。

 

***

自分で自分の存在を、お、いいぞ、と認めることはありですか?

 

安達)

あるよ、それは。

 

***

それは自分でちゃんとできているから、だから他の人に認めてもらわなくてもいいっていうことかな?

 

安達)

あ、それはある。たとえば自治会でいざ難しい仕事がきたら、自分ならできるぞ、と思っている自分がどこかにいる。

 

でもそれは口に出さないし、仕事で本を書いた、なんて話も一切しない。

 

~人生を変えた化学の先生 工業高校から薬科大学へ~

***

自分の存在を自分で認めていられるって、昔からそうでした?

 

安達)

うん、割り方それはある。

 

***

そうなんですね。お父さんお母さんがそれを支えてくれたんでしょうか?

 

安達)

おやじは私が5歳の頃に戦死して、全然覚えてないんです。おふくろは一人で仕事してたから、接点は少ないんですよ。子ども三人育てなきゃいけなかったから。

 

***

お母さんとも長い時間を一緒に過ごしていたわけではないんですね。おじいちゃん、おばあちゃんとの関わりはどうだったんですか?

 

安達)

おじいちゃんはそばにいたね。建具屋やっていたんですよ。職人なんです。

おじいちゃんはそんな話一切しないし。

 

ただね、私は面白いことに育ちの中で今みたいな片鱗はあったかもしれない。

というのは、私は工業高校を出ているんですよ。

なぜといったら、おじいちゃんが一人で頑張っているから、高校を卒業したらその後は建具屋になろうと思っていたの。後を継いで、職人になることを考えていたから、そのつもりで工業高校に行って、のんびりと過ごしていた。

 

それで卒業式して、三か月間建具屋をやったの。

 

そしたら、高校の有機化学の先生がね、たまたま私が建具屋をやっている最中に、23回うちにきて、おじいさんとかおふくろに、私を「大学に行かせろ、大学に行かせろ」って言ってくれたの。

 

***

へぇ~。その先生は担任の先生だったんですか?

 

安達)

担任じゃなかった。その有機化学の先生は、私がどんな答案を書いても100点くれる先生だったの。その代り自分も結構勉強してたけどね。

 

***

どんな答案でもって、答えが合っていたからでしょ?それは。

 

安達)

いや、間違っていたところもあったと思うんですけど、そこは見ずにマルしてくれてた。

 

で、その先生が、「大学に行かせろ」って言ってくれていた時に、私丸鋸で右手の指を縦にパーンと割いたんですよ。だから今も右と左で指の形が違うんだけどね。

 

***

え~!利き手でしょ?

 

安達)

利き手。

 

***

うわ、いたそう!

 

安達)

痛かった。それが原因で、おじいさんも「お前やめろ」って(笑)

 

それで、大学行くなら行ったらどうか?って話になって。

それから、予備校に行ったの。

 

高校には2クラスあって、50人ずつの100人ちょっといたかな。卒業時、その中で大学に行くのは一人だった。私で二人目なんですよ。

 

工業高校といっても、大阪のその高校はわりかた昔から就職率が良くて、結構えらい人が世の中にいっぱい出ていてね。どこかの会社に入り込めば、そういう人のつながりがあるから、結構いいとこまでいってんですよ、みんな。そういう意味ではかなり評判の工業高校ではあった。

 

やっぱりその先生が人生変えてくれたね。

 

そして、明治薬科大学に入ったの。受験生は12001300人くらいいて、実際に入学したのは100人くらい。

 

つまり競争率11倍くらい。後から知ったことだけれど、どうもね、自分はトップで入った。

 

***

すごいですね~!

 

安達)

どうしてそれがわかったかというと、入学してすぐにクラスの面倒を見る学級委員を決めるんですよ。

 

その役割がポンときたの。何できたのかわからないけれど、どうやらその役を回してきた人が、誰かに言ったらしい。「安達が一番だったって言ってたよ」って言ってくれたんだよね。

 

で、実際大学に入って3年の半ばまでかな、ほとんど勉強しないで…

 

***

え~、だって覚えることすごく多いじゃないですか!薬科って。

 

安達)

ないんですよ、高校の時にほとんどやってるの。化学関係は。

 

で、3年の半ばくらいからようやく薬理学関係の専門が出てきて。そこからはやっぱりね。

 

***

へぇ~。じゃ、高校ですでにすごくレベルの高い化学を学んでいたわけですね。

 

安達)

そうそうそう。

 

***

独自で勉強していたんですか?

 

安達)

独自でもしてました。興味もっていたから。

 

~高校時代から培っていた化学の実力~

 

安達)

それでね、大学一年に入った時に「分析」っていうクラブに入ったんです。

そこに、化学ならあいつはうるさいぞっていう、今でも覚えてるけどKっていう3年生がいたの。

分析クラブではみんなそいつに “へぇへぇ”やってるわけ。

私なんかも最初は“へぇへぇ”。

 

そのうちにね、化学の話で「こういう構造があって、これを加えると、こういう構造になるよ」っていう図が出てきたわけ。

でも、自分の考えから言ったらその構造になるというのはあり得ないんですよ。

 

だからつい「あり得ない」って言っちゃった。

 

「いったんそういう構造をとりはするけど、安定性が悪いからすぐにその姿は消えてこちらの構造に移る。だから実際にあるのは、それじゃなくてこっちですよ」って言っちゃったわけですよ。

 

きまず~い雰囲気になって、とりあえず終わったんだけど。

でもやっぱり私が正しかったの。

 

***

あ~、道場破っちゃったわけですね。

(笑)その後どうなりました?

 

安達)

それからね、学校中評判になっちゃった。なんかすごいのが来たぞって。

 

***

おぉ!

 

安達)

高校では、卒業の可否を決めるための「卒業設計」というのがあったんですけど、私に出された課題は、アルコールトルエン系の混合物を、99.998%のアルコール純度で取り出せっていう内容だったの。

 

それをね、大学ノート一冊くらい計算しましたよ。

 

それで、蒸留塔の高さが決まります。最終的に全体の設計図を提出して、卒業設計になるわけ。

 

***

それは、ペーパー試験よりずっと難しいですね。

 

安達)

難しい。今まで習ってきたことの総決算なわけ。

しかも全員違うテーマでやってるんです。

 

***

一人ずつ違う!相談できませんね。

 

安達)

できない。物質も違えば割合も違う。出来上がった設計は全部違う!

 

***

なるほどねー。すごいな。

専門科の学校ってそういうところすごいですね。

 

安達)

そう。だからね、大学3年の半ばまで勉強しなくったって全然平気だった。

そういう経過をたどってね、自分には常にものすごい自信を持ってるんだよね。

 

***

そうなんですね。その経過って、高校から大学の経過ですか?

 

安達)

そう。

 

~自力で積んた薬剤師の経験~

安達)

3年の半ばからは勉強し始めて、そして、大学を卒業したら企業で営業をやる予定にしてあったし、薬剤師の仕事はやりたくないと思っていた。

 

4年生になるとまた新しい勉強が入るし、薬剤師の国家試験も控えてるから大変な時ではあるけれど、4年になる前に大学周辺の病院を歩き回ってね、薬剤師を経験したいんで、なんとかおいてくれって頼み込みにいったんですよ。

 

そしたらT病院がおいてくれた。夜の5時から朝の9時まで当直係をやらせてもらうことになって。

 

土日は24時間勤務。だから調剤室で勉強してました。

 

***

寝られないじゃないですか。

 

安達)

寝ていていいんだけど夜中に救急で患者さんが入ってくると起こされるわけ。夜中の2時でも3時でも。それを一年間やりました。

 

だからね、あの頃薬のことをものすごく知っていましたよ。

ていうのは、夜は別の病院から先生がくるんですよ。昼間と人が変わる。

そうするとお医者さんによって出す薬が違うわけ。

 

依頼された薬がうちの病院になかったら「こっちの薬にしてくれ」って言わなくちゃいけない。もう色々勉強するわけ。だからかなりの量知っていました。

 

***

どうして病院での当直をやろうと思ったんですか?

 

安達)

薬剤師の仕事はやりたくない。でも薬剤師の仕事を知らないで薬剤師の免許をもらうのもいやだと思ったから。

 

***

なるほどねぇ~。すごく自分の頭と自分の感覚で決めてますよね。

 

安達)

わりかたよく決めてるよね、それは多いねぇ。

 

***

4年生からということは、3年生を終えた春休みに病院を探したんですか?

 

安達)

そう。それで引っ越しまでしました。下宿を出て病院の中に住んだ。

 

しかもね、今から考えるとよくやったなと思うんだけど、普通の薬局も経験しようと思って、10か月後の2月くらいに病院はやめたんです。また歩きまわって、沼袋の薬局にようやく承諾もらって、1か月間雇ってもらった。

 

***

まだその時は免許降りてないですよね。

 

安達)降りていない。

 

***

じゃ見習いみたいな感じで?

 

安達)

見習いというか、留守番役ね。それは普通の街の薬局。

 

そういう経過を経てきているから、会社に入ったって何てことないですよ。薬は知っているし。

どこへ飛び込んでも平気だもん。

 

***

ところで、なんで営業って決めたんですか?

 

安達)

お金が良かったから。おじいちゃん年取ったし、おふくろ一人だから、面倒みてやらなきゃいかんと思って。なるべくお金のいいところに。その発想が結果的にものすごく良かった。

 

 

~高校時代まで自信はなかった~

***

そうなんですね。昔からの座右の銘みたいなものってあります?大事にしている言葉とか。

 

安達)

大事にしてることはやっぱりね、〈早く行動すること〉ですかね。

思ったら割と早く行動する。

 

病院に頼みに行く時だって、心配は心配よ。免許もってないのにさぁ、夜預かるわけだから。

それをやらしてくれるところなんてあるのかな、と思って行ったらば、あったからね。

 

***

でも、断られたりもしたわけでしょう。

 

安達)

断られもしましたね。

 

***

そういう時落ち込まないんですか?

 

安達)

落ち込まない。他の所を探そうと思うから。

 

***

やっぱりそれも、安達さん自分自身にすごい自信があるからですよね。

 

安達)

いやぁ、自信ていう自覚はないんだよね。割と。

 

***

へぇー。“自分”て思った時、どんなイメージがありますか?

 

安達)

どうかなぁ。わりかたなんでもできるっていう自信はあったよね、確かに。

 

***

そうなんですね。それはいつ頃から?小学校の頃どうでした?

 

安達)

小学校の時なんて全然。ひ弱だったし。

 

だからやっぱり有機化学の先生かもね。当時は変な先生、と思っていたけど。

大学はトップで入ってるし、卒業する時も代表として答辞読んでるし。

 

***

有機化学の先生のおかげで自分に自信を持った?

 

安達)

いやぁ、そうでもない。工業高校から大学はいけないっていうのがあの頃の常識だったしね。

 

***

そうだったんですか。

 

安達)

そりゃだって、卒業試験として“卒業設計”みたいのをやってきてるわけだから。

 

予備校に行ってびっくりしたもん。みんなこんなことやってんの?と思った。

内容が全然違うんですよ。

こりゃ大変だと思ったもん。それを通り越して、ずーっと自信なかったよね。

 

で、大学に入ってからですよ。えー、これで入れたの?って。

 

***

ずーっと自信なかったのはいつのこと言ってます?

 

安達)

ずっと。予備校に入ってる時だって自信なかったし。

観たことないことばっかりいっぱい出てくるわけよ。それでも大学に入れたでしょう。

 

入ってからも3年間ほとんど勉強しなくて済んで。だからその大学時代でしょうね、自信がついたのは。

 

***

具体的には1年生の時?

 

安達)

そうね。学級委員やらされて。まわりからは大変な学生入ってきたくらいのこと言われて。

 

自分では何でもないし。大阪弁丸出しだったから、学級委員でみんなの前に立って物を言うと笑われたけど。

何で笑うんだろうな、と思ったけど。

 

それでしかも病院に勤めたり、町の薬局に行ってみたり、そういう経験を通して薬に関してはその頃の自信は大変なもんだった。何でもわかってた。

 

***

すごいね!それまでの中学とか高校までは、自信があるっていう感覚はなかったんですか?

 

安達)

ないない。まったくない。

 

だってね、高校受験する時に、中学2年生だったかなぁ。英語・社会・国語、この辺は20点以上取ったことない。

 

その代り数学理科はものすごくいいという、とても偏った人間だったんですよ。

 

***

文系は勉強しなかった?

 

安達)

文系も理系も勉強しなかった。

 

***

両方ともしなかったんですね!国語・英語・社会は、全然興味がなかったってことですか?

 

安達)

興味ない。面白くなかったね。

 

でもね、あの時俺偉かったなと思うのは、そんなことじゃ工業高校だって行けないぞって言われて、担任の先生に問題集みたいなのを渡されて、これをやれって言われたの。

 

やったら毎日ハンコをついてくれた。

そしたら急激に成績良くなって。

 

生徒は500人くらいいた中でいつも300番とか350番とか、だったけれど、その先生にそれやってもらって、一気に50番くらいまで上がったのかな。

 

***

そのあたりからもう自信はちょっとできてきた…

 

安達)

いや、自信じゃなかったですよ。それはもうたまたま良くなっただけみたいな感じだし、自信までは全然結びつかない。

 

***

でもほんとに自信がなかったら、逆に不安で一生懸命やると思うんだけど、そういう不安もなかったってことでしょ。

 

安達)

ないねぇ。どうせ建具屋やるからと思ってたし。

 

***

あぁそうかそうか。

 

安達)

おじいちゃんは、勉強できなくたっていいよーって言ってたし。

全然うるさくなかった。ほったらかしにしてた。

 

***

へぇ。文系の成績がそれ程良くなくても、“だからうんぬん”は全く言われなかったということですね。

 

お母さんに、関わる時間は短かったかもしれないけど、大切にされたっていう感覚はありました?

 

安達)

あるよ、それはある。おふくろはある意味でものすごく優しかったし、何をしていようが怒ることはなかった。小さい頃もなんせ叱られたことないし。いつも優しい顔しか思い浮かばない。

 

そういう意味では、逆に偏っていたかもしれない。優しすぎに。

 

***

そうなの?でもそれは自分が大切な存在なんだ、って感じるのには役に立ってる?

 

安達)

あ!役に立ってるね!

 

***

お母さんに怒られたことはなくて、おじいちゃんおばあちゃんからは?

 

安達)

おじいちゃんおばあちゃんもない。

 

***

ほんとぉ。悪さもしました?

 

安達)

そんなに悪さはしなかったと思うけど、まぁ多分してたと思うけど、怒られた記憶はない。

 

生い立ちからすると…初めてこんな風に振り返ったけど、そういうことだね。

 

***

いやー、安達語録にメモがいっぱいです。

 

安達)

そんなの言われたことないよ~。

 

***

いっぱい周りの人は思ってますよ、きっと。

 

だって相談にみえるじゃないですか。安達さんの面接の言葉が印象に残っているって言ってくれる人とか。実はそういう人いっぱいいると思いますよ。

 

行く先々で成績アップ:マネージャー時代

 ~独特の部下育て法~

 

安達)

そうでもないけどねぇ。

 

ただね、私もつい去年くらいかな、初めて知ったことがあるんだけど。

30歳くらいの時に、営業マンを育てるための研修を2年くらい担当していたんです。

1ヶ月くらい富士山のふもとで合宿するんですよ。

そこで30人くらいの参加者とずっと一緒に過ごしました。講師は会社からくる。担当は私一人。基本的に私が面倒をみる。

 

参加した彼らが毎年同期会を開いているんですが、必ず私にも声をかけてくれる。

同期会は全国あちこちでやるんだけど、去年東京でやったから顔出したの。

 

そしたら、 “一日色々な講義をやって、その最後に安達さんが出てきてちょこっと何か言うことがあるんだ。それが良かったんだ”って言うんですよ。自分では何にも覚えてないけど。

 

***

へぇ~え。何が良かったのかな?

 

安達)

楽しみなんだって。誰かの講義が終わってね、最後の締めの言葉みたいなところで私が何か言うらしいんですよ。それがものすごく印象に残ってる、っていうのはいた!

 

***

へぇ~!愛されてますね~。

 

安達)

(笑)それはね、おやっと思った。びっくりした。

 

***

その当時大事にしていたのは何だったですか?

 

安達)

彼らをとにかくここで一人前に育てないとダメだ、と思っていたからねぇ。

 

ただそれだけで、彼らより一番遅く寝て一番早く起きてた。

 

夜になったらみんな勉強してるかどうか回ったりねぇ。一緒にもう「闘いだ」と思ってた。

 彼らとのたたかい。

 

***

まるでお父さんですね。

 

安達)

そうそう、お父さん。みんなその印象が強いみたい。

 

夜にばたばた騒いでると「おい、明日もあるぞ」と言ったりね。

夜の自習時間にはわかんないとこあるか、と聞いたりとか。

 

で朝は一番早く起きて、みんなが起きてくるのを待ってて、ラジオ体操したり。

 

***

みんなをお迎えする。

 

安達)

うん、お迎えしてる。一番気になるのは体調だよね。体調悪い人いないかとか、気になる。

 

***

ほんとに観察してますよね、人のことを。

 

安達)

あぁ、そういう意味ではあの時はすごかったね。観察してたね。

 

***

もともと人に興味ある?

 

安達)

ある。人に興味あると思う。だからコーチングも楽しかったよね。

 

もう一つはね、自分の強みを5つ出すっていう本で、出る強みは5つだけだけど、本当は30個くらいあるんだよね。その30番目を聴いたことがあるんです。普通は教えてくれないんだけどね。

 

30番目、つまり一番弱いのは「勝負事」。賭け事、勝った負けた。これが一番低い30番目。

普通はもっと上にある強みらしいんですけどね。

 

ゴルフなんか行ってもよく内輪で遊びで賭けたりするじゃない。

 

賭けるとすごく力を出す人もいるんだけど、私は何っとも思わない。全然関係ない。みんなが楽しいなら、別にいいよ、付き合うよ、っていう感じ。

 

***

へぇ~。ちなみに強みのトップ5はなんでした?

 

安達)

忘れちゃった。30番目だけすごく印象的で。

 

だからパチンコは行かないし、麻雀はやりますけど、あるところまで行ったら必ず負けるんですよ。

 

***

勝つ気がないってこと?

 

 

 

安達)

 

そう。

 

***

私は営業職をやったことがないからわからないんだけれど、ある程度勝負の世界じゃないんですか?

 

安達)

いや、勝負の世界なんでしょう。他社とはね。

 

***

同期とだって勝負の世界でしょう?

 

安達)

同期で勝負の世界の意味を感じたことはあんまりない。

 

私の仕事の仕方は無理せずゆっくりなタイプだけど、結構売り上げは上がってたんだよね、不思議なことに。

 

***

成績がいいから、管理職になって…

 

 

~毎週末必ず部下が遊びにくる管理職時代~

 

安達)

そう。で部下をかかえるじゃない。そうすると大概うちのチームがトップ取ってるんだよ。

 

***

何でそんなことができるんですか?

 

安達)

わかんない!でも間違いなく取ってるの。

 

***

部下も成績あげるってことですよね?

 

安達)

そう!

 

私が初めてマネージャーになったのは熊本なんですよ。

熊本の中に4人部下がいて、鹿児島に2人いて宮崎に一人いて。合計7人の部下。7人の出張所長。

 

鹿児島と宮崎は向こうに駐在しているわけですよ。熊本の連中は一緒に働いている。

 

うちは土日休みだったけれど、土日になるとこの4人がなぜかウチにくるんですよ。

ウチに来て、ウチの子どもと遊んだりして、ばたばたやってるの。

で、晩飯食べて帰っていく。必ず誰か来てる。

 

***

土日のどちらか?

 

安達)

いや、両方とも誰かが来てる。そういうことってあまりないみい。

 

***

それは不思議~。

 

安達)

私も別に、来いとも何にも言ってない。

 

で、来たら部下は勝手に子どもと遊んでるし、私は私で、来たかっていうことでごそごそ言わないで自分のことやってるし。

 

飯の時くらいかな、一緒にいるのは。

 

熊本では土地が広いところを社宅でもらってたから、鬼ごっこなんかして子どもと遊んだりして。ほとんど毎週誰かがいた。

 

***

面白いねー。普通は、平日ずっと一緒にいる上司のところにわざわざ

 

安達)

来ないでしょう。

 

***

来ないですよね。

 

安達)

 

ね。で不思議なことに別にね、ああせいこうせい言わないけど、成績は伸びてるね。

 

***

 

何かしてるんですよね。

 

安達)

 

やってないやってない(笑)

 

***

逆にやらないからいいのかな。

 

安達)

多分。

 

***

他の人がやってて安達さんがやってないことってなんですか?上司として。

 

安達)

それが初めての上司の経験なんだよね。で、不思議でも何でもなかったわけ、自分ではね。

 

***

まあこんなもんなんだろうなって思っていたんですね。全然そんなもんじゃないんだっていうことは後で知るんでしょう?

 

安達)

東京に来てからね。

 東京来てから、40名とか大きな組織のトップになっても、不思議~と数字は上がる。

 

でね、一つ気を付けてたことは、とにかく部下は「こうしたい」とかいろいろ来るじゃないですか。

 顔を何となく見てるんだろうね。こいつ自信あるな、と思うやつはそのままボーンとやってもらうわけ。

 

で、「どうなんですかね」って相談にくるのには、「ちょっと考えてからきたら」っていう感じで、

 

「もうちょっと何か必要であれば考えてみて、相談にこいよ」って、そのくらいの感じで返してるのが多いよね。

 

ところが「これやりたい!」ってもってくるのは、気構えでわかるじゃない。

そういうのはポーン!とやらしちゃう。そこだけ。

部下は自信があってやろうとしているかどうかっていうところだけ見てる。

 

***

自信がなくて「どうですかね」なんて言ってくる人にアドバイスしたりとかはしない?

 

安達)

向こうから質問が来たら答える。こなければしない。

 

***

結局人を見てるんですね。

 

安達)

うん、その中で何が重要だったかって考えてみると、理屈がどうのこうのじゃなくて、本人がほんとにこれをやる気かどうか、しか見てない。

 

***

もうそれは伝わってくるもの。

 

安達)

それは伝わってくる。わかる。いつも自信がないのもいるよね。

そういうのは同行して一緒に回ったり。

 

***

やっぱり、合宿の時に見てまわったように、見てるんでしょうね。

 

 

安達)

どっか見てるんだろうね。

どうしてだかはわからないけど、行くとこ全部成績あげたよ。

 

***

も~、大事なことがそこに隠れてる~。知りたーい。多分でも一つは、存在証明に力入れないっていうのは絶対大きいと思うんですよね。

 

安達)

あ、一つはそうね。

 

***

 

ね。で自分の存在証明より部下の方をっていうそれは絶対大きいと思うんです。あと、見ていてくれてるっていう安心感と。

 

We are OK!を育む日本の仕組み

 

安達)

そうかそうか。

基本、人のスタートはI’m not OK.から始まるもんね。

赤ちゃんの頃は、I’m not OK.から始まる。

 

***

赤ちゃんとしては自分が十分じゃないんですもんね。何もできないし。

 

安達)

そう。何もできない自分から始まるからね。I’m OK.になっていくためには親の愛情とか、周りから認められることが増えてこないと、なかなか難しい。その時一番大きいのは親だよね。

 

You are OK.出してくれないと中々ね。

 

そういう意味で、うちのおふくろなんか見たら、怒られたことないっていうわけだから、いつでもYou are OK.のサインを送ってくれてた。それでも自分の中では中々I’m OKにはならない。

 

***

やっぱり親って身近すぎるから、有機化学の先生みたいなほんとの第三者がOK出してくれるっていうのは大きいですよね。

 

安達)

大きい。で、段々積み重なって初めてI’m OKになってくる。その過程がやっぱり必要なんですよ。

 

どこかで他人からのOKが必要なんだよね。

それをいかに重ねていくか。

 

自治会に入って、盆踊りとかやるじゃない。

ものすごい手間がかかるわけですよ。やぐらを組んだりね、色々セッティングして。

盆踊りそのものはたったの3時間くらい。

 そのために班長さんたちを集めて、ものすごい労力かけて、2週間も3週間もかけて、何でこれをやるんだってちょっと悩んだことがあるんですよ。

 

ずーっと考えてみていくと、そこにつながる。

 

何かっていうと、準備の過程の中で、一緒に仕事をしていく人たちが手をつないで、We are OKの状態を創らないとうまくいかないんですよ。

 

ね。だから日本の文化の原点、和。そこと結びつけたの。和。

We are OKなんですよ。

 

そしてWe are OKな時は、一人ひとりもOKなんです。OKで創り上げていく。

そういう経験が多ければ多いほど、日本の文化は固まっていくんです。

 

そういうことを通してWe are OKを創り上げている。

 

***

なるほど!そのための仕組みなんですね、お祭りも盆踊りも。

 

安達)

そう。だからなるべくそういう場に子どもを連れていって、和を創っていく。

和を体験していく。

OK」なんですよ。

 

***

 そうすると、親でもない第三者からのYou are OKも言われやすいですもんね。

 

安達)

そう、それを感じやすいんです。

これはすごい大事なことだと思ってる。

 

***

結果じゃないんだね。プロセスで起きていることに意味がある。

 

安達)

親子できて、たった一時の経験。写真とったりなんかして。それも必要。

 

We are OKの大切さ。

これはほんとに最近気が付いたこと。

 

***

とっても大切なことですね!次世代に受け継ぎたい知恵です。

 今日は色々とお話を伺えて本当に楽しかったです。

 どうもありがとうございました。